質問者:BofA証券株式会社 榎本尚志氏
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A1昨年発表した中期経営計画では、売上収益目標は、初年度(2021年度)に8,900億円、最終年度(2023年度)に1兆1,000億円としていましたが、初年度の売上収益実績は9,983億円となり、2年目(2022年度)の売上収益予想は1兆2,000億円としており、最終年度の目標を1年前倒しで達成する見通しです。これは想定よりもポジティブな結果であり、当社のプラットフォーム(事業基盤)の強さや、オペレーティングレバレッジ、シェア向上に伴う価格転嫁力などがもたらしたものです。一方で、2021年度は原材料高が重くのしかかり、2022年度もウクライナ情勢や中国でのコロナウイルス感染拡大によるロックダウンなど想定外の事象も既に発生しています。
しかしながら、中長期的には、着実な価格転嫁や売上増加に伴うオペレーティングレバレッジによる利益率の改善、当社プラットフォームの強さなどにより、このような厳しい環境下だからこそ、当社はピンチをチャンスとし、競合他社に勝つことが可能であり、実際に2021年度はその強さが際立っていました。
説明資料P8に記載の通り、2022年度の営業利益計画1,150億円を出発点とした場合、2023年度の営業利益目標1,400億円まで残り250億円となります。この数値は、例えば営業利益率を13%まで伸ばさなければ達成できないということではありません。例えば、これまでも達成してきた売上増加+10%に加えて、営業利益率を1.0pt改善すれば、約250億円の増益となり目標値に届きます。
したがって、根強い塗料需要がある中、当社プラットフォームの強さを発揮し、現状の厳しい環境下でも着実に成長を遂げることで、原材料高や不安定な世界情勢、国際物流の混乱による影響を相殺し、当初の計画通り1,400億円を達成できると想定しています。 -
A2「アセット・アセンブラー」としての考え方のもと、本社は各パートナー会社に過干渉しません。例えば、オーストラリア市場で着実な成長を遂げる方法はDuluxGroup社の優秀な経営陣が最も理解しているように、一定の自律性を尊重することで各パートナー会社は非常に自由闊達な経営ができます。またトルコのBetek Boya社の場合も、現在の高インフレが発生している中で、その都度本社へ相談していれば様々な商機を逃します。
このように、「アセット・アセンブラー」の基本にある、各パートナー会社の極めて優秀な経営陣が、リスクへの高い感応度も持ち合わせていることが、グローバルで見ても競合他社には無い経営体制だと考えます。また、各パートナー会社の経営陣全員が、売上成長や市場シェアの向上だけでなく、利益成長も必達という意識を非常に高く認識していることが、当社の強さの一つです。
質問者:ゴールドマン・サックス証券株式会社 池田篤氏
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A1市場規模についてはさまざまな見方があり、貴社の想定と整合しない部分もあると考えます。当社では建築用塗料市場全体では新築住宅向けが約2/3、リノベーション向けが約1/3と想定していますが、2021年9月に開催したNIPSEA説明会で申し上げた通り、特級都市や1級都市では半々程度と見ています。当社の2021年度のDIYとProjectの売上比率は大よそ6:4、市場シェアは27%と9%のため、逆算すればProjectの新築住宅向けの規模が比較的大きいと推定できます。
2022年の市況予想について、DIYは比較的好調、Projectは弱含むと当社は分析していますが、2021-2023年で見た場合、都市化の進展が急激に止まることや、良質な住宅供給が急に止まることは考えにくく、一人当たりの塗料消費量は増加し、プラス成長すると見込んでいます。また、当社は新築住宅向けだけでなく、リノベーション向けでの収益や、DIYにおけるスケルトンでの新築住宅販売による需要も減少しているとは言え、まだ残っています。これらの需要を取り込んだことで、昨年のDIYは+35%、Projectは+29%の増収を達成しており、2022年度についても2桁成長は十分達成可能と考えます。 -
A2基本的に優良なディベロッパーは引き続き成長していきますので、Projectでのディベロッパー向け比率を下げる必要はないと考えています。当社は上位100社の中でのシェアを高めることで高成長を遂げてきましたが、一部苦戦しているディベロッパーもいるため、高成長は一旦緩やかになっています。昨今の状況を鑑みると成長の鈍化は致し方ないことですが、この先も特定のディベロッパーは引き続き成長すると予想しているため、当社はこのようなディベロッパーとの連携を強化し、既に強固な関係を構築しています。
2022年度は利益率重視のため、ディベロッパーや販売店との取引において、採算性をもとに選択と集中を推し進めていきます。その上で販売数量と価格/ミックスについて、2021年度は+29%の増収のうち、大半は販売数量の増加によるものであり、価格起因は些少でした。2022年度も売上成長のうち半数以上は販売数量によると見込んでいます。価格については可能な限りいつでも値上げする努力を継続することで、利益を着実に増やします。市場シェア向上による販売数量の増加と、継続的な販売価格の値上げ努力を追求していきます。 -
A3一般的に、DIYの方が、競争環境や市場特性などから、相対的に値上げをしやすいですが、現場では非常に苦労しつつ、顧客の理解を得ながら進めています。
NIPSEA中国汎用事業全体で見れば、DIYとProjectの合計となるため、現状の利益率は満足していないものの、利益は成長しています。Projectでは赤字の競合他社がいる中で、当社としても利益率の改善にさらに注力していきますが、競合他社が間隙を縫って価格戦略を取る場合、当社はシェアを失う可能性があります。しかし、2019年や2020年と比較すると、Project市場全体で価格戦略を取りにくい環境であると想定しており、当社としては顧客の理解を得ながら値上げできるところは値上げを進めていきます。
質問者:JPモルガン証券株式会社 佐野智太郎氏
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A1塗料業界は設備投資の負担が比較的軽く、キャッシュの創出力も非常に安定的な特性であるため、倒産確率は非常に低いと考えており、必ずしもNet Debt/EBITDAが基準とならない点を、金融機関や格付機関には一定の理解を頂いています。その中で、Net Debt/EBITDAが4倍だからM&Aを実施しないということはありません。また、数値は現時点の予測値であり、今後営業利益が増加すればNet Debt/EBITDAの倍率は下がります。競合他社でも買収時に倍率が上昇したものの、その後キャッシュを回収して倍率を下げたことで、株価が上昇した事例もあります。
これらを総合的に勘案するとともに、金融機関や格付機関との緊密なコミュニケーションを継続し、財務の安全性を注視しながら資金調達を検討していきます。当社は今後も高い成長を継続する自信がありますが、一方で金融機関や格付機関にも理解を得る必要があります。したがって、状況により可能な倍率は変わってきますので、当社としてはNet Debt/EBITDA倍率の上限は決めていません。 -
A2M&Aが目的化している訳ではなく、成長が見込めるM&Aは貪欲に実施し、M&Aがない場合はキャッシュを貯め返済していきます。現状の資本使途としては、当社に付加価値を与える塗料市場は周辺領域まで拡大していくと考えていますので、その前提で投資し成長を追求していきます。当然、成長の大前提にはMSV(株主価値最大化)の実現があります。
質問者:みずほ証券株式会社 吉田篤氏
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A1現状の2022年度第2四半期予想は2022年2月発表時点のものであり、発表以降も不確定要素は減じていないため、改善傾向は若干ずれ込むリスクはあるものの、通期では取り戻す想定で、全体の目標を変更する予定はありません。足元では厳しい状況が続いており、例えば中国でも、1-2月は閑散期で、3月の需要期はロックダウンによる影響などが発生しており厳しい状況です。しかし、その点を踏まえた上でも、通期目標の変更はありません。
ナフサ価格は、2022年2月のガイダンス発表時は6万円台後半を想定していましたが、現在は7万円台半ばを想定しており、変動幅が大きいことで見通しが難しい点もあります。水性塗料などは比較的ナフサ価格と連動しない一方で、溶剤塗料などはナフサ価格の影響を大きく受けるため、7万円台半ば程度の前提では足りない可能性もある点は各パートナー会社も理解をした上で、ナフサ価格の変動が収益に与える影響を見極めていきます。
値上げによる需要減少については、例えば、経済全体でのインフレが進んだ場合、塗装工の人件費や塗料以外の材料費の上昇と連動して需要への影響が発生すると想定しています。塗料そのものはDIFMやDIYの構成要素としては小さいもので、特にオーストラリアのDIY市場など、個人が購入する分野での値上げによる需要減少は少ないと考えています。地域により事業形態も違うため影響も地域差がありますが、全体的に考えると値上げによる需要減少は少ない業界である認識です。 -
A2顧客との関係性もある中での値上げは簡単ではありませんが、需要は確保していく前提です。海外でも同様ですが、値上げは基本的に容易ではありません。一昔前の日本のさまざまな業界で見られた、競合他社による価格戦略を恐れて値上げできないという環境からは変化していると考えています。
現在は競合他社も企業努力を超えた範囲は値上げをしていく状況であり、程度の問題はありますが、値上げは可能だと認識しています。日本に関しても、目標への達成度を考えた上で、各パートナー会社で値上げを含め努力を行い、目標達成へ繋げていきます。
質問者:日本経済新聞社 越智小夏氏
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A1当社はロシア・ウクライナへの多少の輸出はありますが、当社事業への直接的な影響は極めて少ないと考えています。また、原油などの原材料価格の高騰が消費行動へ影響し、例えばリフォーム欲求への心理抑制が働くなどの可能性は多少あると想定しています。
ただし、業績の観点からすれば、工業用や自動車用事業において、半導体不足による生産遅延が解消されることの方が影響としては大きい側面があります。
経済全体の視点では、スタグフレーション(景気停滞の中で賃金は上昇せず、物価は上昇する状況)が世界中で発生した場合の懸念はありますが、当社は各地域で市場特性が異なり、各地域の状況を色濃く反映していく経営モデルであり、例えばオーストラリアやアジア全般での塗料需要は引き続き堅調と見込んでいます。
質問者:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 藤田知未氏
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A1年初来の株価の下落は、2022年1月7日発表の株式売出しから始まりましたが、2022年2月14日の2021年度通期決算発表後は多少持ち直し、かつ総合的に見れば当社よりも株価を下げた同業他社も存在しており、市場全体が非常に厳しい環境にあることは間違いありません。
株式売出しについては、低い株式流動性が健全な株価の形成を妨げると想定し、売上対比で0.1%である日次出来高を改善する目的で実施しました。また、金融機関の売却ニーズをまとめ、株主基盤を新たに再構築するべく、しっかり当社の成長ストーリーを理解している投資家の方に当社株式を保有してもらうことを目指しました。このような背景で株式売出しを行いましたが、図らずも流動性や株主構成の弱さが出ました。結果として短期的な空売りの誘発にもつながり株価下落の一因とも指摘されましたが、2月以降にその株価の下落分を多少取り戻しました。
当社の理解では2022年のPERは27倍程度と認識していますが、数字の取り方はさまざまなため、評価そのものへの言及は差し控えます。当社の「アセット・アセンブラー」は、非常に堅実な成長が可能なプラットフォームであり、唯一のミッションであるMSVを追求するためのモデルです。例えばアジアやオーストラリアという強いベースでの積み上げについて、各M&Aが奏功していることは実績から明白であるものの、今後の収益成長や当社の考え方がまだ投資家の皆様に十分遡及しきれていないかもしれません。
その中で2点補足すると、1点目は原材料価格高騰に伴う価格転嫁について、短期的には厳しい一方、中期的には利益率を確保できる一定のメカニズムが塗料業界にはあると考えています。現時点では原材料価格が低下する想定はしていませんが、原材料価格の上昇に伴い低下した利益率は、原材料価格の下降後に回復し、利益率を改善できる可能性も十分あります。
2点目は、多くの質問が寄せられる中国について、中国の新築市況が不調であれば当社の事業全体の業績も悪化すると捉えられることもありますが、当社の事業運営はもう一段階上の水準で進んでいます。当社はさまざまな形で中国全体の市場を網羅するプラットフォームと、中国での高いブランド力を持ち合わせています。例えば中国の建築用塗料事業において、2019-2020年度にかけてはProjectが強く成長し、DIYの成長は緩やかでしたが、2021年度にはDIYも十分に成長しています。当社の事業構成に占める中国の比率が高いのは事実ですが、それらを超えたプラットフォームの強さが、2022年度以降の売上規模が1兆円を超える見通しである点に表れていると考えます。
PERの最大化を重視しつつも、当社が長期的に成長できる利益追求もやはり重要と考えます。当社の場合は金利水準も非常に低いことから、当期利益およびEPSの成長が期待できるプラットフォームであり、今後も長期的な成長とMSV実現を追求していきます。 -
A2ROEは財務レバレッジを助長する側面もある一方、ROICは重要と考えていますが、当社の資金の使い方は、説明資料P10のとおり積み上げモデルであり、これは日本拠点だからこそ可能な側面もあり、当社の資金調達力が無ければ実現できません。やはり、当期利益およびEPSを成長させる戦略が基本になります。しかし、例えばM&Aを行う際には、ROICの確認やDCF法による企業価値評価は実施します。つまり各種財務指標を無視している訳ではなく、投資家の皆様と当社が重点を置く指標は、少し異なる可能性があります。
また長期的な課題でもありますが、ROIC経営などが流行する中、それに捉われ過ぎた場合、機会損失を生み成長力を削ぐ可能性もあります。一例として、2019年にDuluxGroup社を買収した際、成熟している豪州市場をベースとする同社の評価がEV/EBITDA 倍率16.2倍であったことにつき、割高とご指摘いただきましたが、当社は当時無借金であり、借入によるレバレッジをかけた低金利の資金調達によって2桁のEPS成長が見込まれ、かつ当社事業のさらなる拡大を期待できました。結果として、DuluxGroup社を迎え入れたことで、同社のSelleysブランドをはじめ、当社は塗料周辺分野にも進出しました。また、DuluxGroup社が、オーストラリア単独の上場企業のままであれば、2019年当時で時価総額は約2,500億円であり、Cromology社の買収は難しかったと考えています。
M&A実施の判断は、買収後の相乗効果と価格以外の企業価値を含めた高い視点を持っており、取締役会でも十分議論し合意を得ています。今後、各種指標をよりつぶさに見ていくことは、当社モデルの理解をより深めると考えます。過去の事例を振り返ると、2018年度には取締役構成の変更と共にMSVを掲げ始め、2019年度にはトルコ・豪州の建築用分野におけるM&Aを実施し、2020年度以降はアジア合弁事業の100%化・インドネシア事業のM&Aを進めました。
このように、当社のリスクを極めて最小に抑えながら成長を加速させるM&A戦略の成果が、当社業績に反映されつつあります。現在のM&A戦略は継続するものの、例えば、Net Debt/EBITDAの10倍までレバレッジをかけることはありませんので、いつか借入による資金調達の限界が来るかもしれません。したがって、資本増強を通じた資金調達を行う可能性はありますが、優先度は低いです。まずは借入で可能な限り資金を調達し、その中でさまざまな価値を創出していきます。
質問者:CLSA証券株式会社 張一帆氏
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A1実際には、塗料業界と塗料周辺分野の相互の業界参入は発生しています。顧客の最終的な要望に対し、一気通貫で幅広く製品を提供することが競争力にも繋がります。塗料周辺分野の企業にとっても同様です。当社も特に不動産ディベロッパーとの関係性において、取り扱う製品を充実させたことで好影響がありました。
また、塗料周辺事業は利益率をしっかり確保できるビジネスであり、基本的に利益率は2桁です。例えば、買収した企業において大規模な設備投資が必要であれば、当社からの大規模な増資が必要となり、持続的な利益貢献は難しくなります。しかし、これまで当社が買収した企業は、いずれも個社単体でも比較的高い収益性を確保し、かつ大規模な設備投資が不要であり、当社が目指すビジネスモデルでもあります。加えて、強いブランドを保有し、非常に堅実なキャッシュフローを見込める企業がM&Aの対象であり、そのような企業が積み上がることで、DuluxGroup社のように大きなシナジーが発生しなくても、当社にとっては事業が積み上がり、かつ非常に安全な投資であり、各アセットが当社グループにもたらす副次的な効果が期待できると考えています。
しかし、どんな案件でも買収する訳ではなく、非常に選択的に実施する必要があります。塗料業界には強い自信がありますが、塗料周辺分野についてはDuluxGroup社から始まった塗料周辺事業をベースに積み上げていくのか、あるいは優れた特性を持つ企業を新規事業進出への足がかりとして買収するかについては、検討中です。 -
A2当社が塗料周辺事業と言及する分野として、SAF(密封剤、接着剤、充填剤)やCC(建設化学品)などを挙げていますが、例えばBetekBoya社であればETICS(断熱材)を展開しています。同社の市場シェアは約40%にのぼり、かつ高いブランド力と優れたキャッシュフローを誇る事業です。
つまり防水材など特定の製品に限定はせず、対象は非常に幅広く、例えば接着剤にしても、大型小売店で販売するB2C向け製品から建築用などのB2B向けの製品もあり、それぞれの特性を考慮して展開する予定です。また、原材料については、塗料と同様に物流も含めて全体にコストが増加し利益率に影響を与えているため、その前提で事業運営を行います。
質問者:ジェフリーズ証券会社 東佳宏氏
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A1価格改定頻度は、契約にもよりますが、現状では年1~2回程と非常に少なく、その中での交渉となります。一方で足元の急激な原材料価格の高騰などの場合は、例外的な価格改定も打診しています。物流費などは、追加料金といった別枠での取り扱いとすることも含め、各現場で交渉しています。顧客も同様にインフレの影響を受けているため、全てが希望通りというわけではありませんが、概して海外では価格改定が進んでいます。
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A2ご指摘の通り、当社グループは円貨で資金調達ができる強みがあります。海外の金利が上昇することで、相対的に当社の競争力がさらに高まることも考えられます。借入にかかる金利負担がかなり少ないことから、借入に伴う金融機関および債権者の理解を十分に得られるかがポイントとなります。NetDebt/EBITDA 10倍は極端な例ですが、上限が現状の4倍とも申し上げておらず、状況次第と認識しています。