バイサイド・アナリストと共同社長のスモールミーティング 質疑応答要旨

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若月共同社長

本日はスモールミーティングへご参加いただき、ありがとうございます。時間の関係上、このまま質疑応答に入ります。その前に、皆様の関心の高い中国事業についてご説明いたします。

私は当社の中国事業について、厳しい経済状況の中にあっても、慎重ながら楽観的な見方を維持していますが、より現場の状況に精通しているNIPSEAグループのCEOでもあるウィーから、現状と今後の見通しについてご説明いたします。

ウィー共同社長

皆様、こんにちは。ご参加いただき、ありがとうございます。

中国の状況については、前回ミーティングを実施した2022年11月から大きく変化しています。中国では当時、まだゼロコロナ政策が続いていました。北京で大きな会議が開催され、指導者の続投が決定した時期とも重なっていたため、誰もが規制緩和や経済刺激策への期待を高めていました。

ご承知の通り、コロナ影響が収束した現在も、市場環境は当初期待していたほどの改善には至っていません。

2023年第1四半期に見られた改善傾向はすぐに失速し、現在に至っています。中国経済、特に当社との関係性が最も深い建設セクターは激しい逆風に直面しています。

中国政府が約3年前に開始したデレバレッジ(過剰債務削減)政策の影響により、負債を抱えた大手民間ディベロッパー数社が極めて深刻な打撃を受けました。

しかし、最近になって最大手を除く数社のディベロッパーが再建を果たしたことは明るい兆しです。香港の裁判所は2023年12月4日、最大手ディベロッパーが海外債務者と和解するための猶予を1ヵ月延長しました。

こうした状況下、複数の地方政府が各都市での不動産購入規制を緩和したことで、わずかながら希望の光が見えてきました。さらに、支援と資金提供を受けることができるディベロッパー50社を指定したホワイトリストが存在するという情報もあります。これらの状況により、政府が現状に対応しているという安心感が生まれているものの、当社としてはNIPSEA中国事業に関する限り、不動産セクターの早期回復が期待できているわけではありません。

これまで述べた全ての事象は、当社のTUB事業に影響を与えます。ご承知の通り、TUB事業はここ数年、大きな転換期を迎えています。当社は多くの主要な競合他社と同様に、これまで大手ディベロッパーへの製品やサービスの提供に注力していましたが、近年は地方の小規模ディベロッパーに軸足を移しています。また、大手の建設請負業者やサービス・プロバイダーからなる顧客基盤にシフトするとともに、従来の住宅セクターの枠を超えた非住宅セクターやインフラセクターに移行しつつあります。

また、全ての既存顧客の信用状況を見直し、取引相手の選択にも慎重な姿勢を強めています。この結果、これまで期待通りの実績が上がっていなかった外壁断熱事業などの一部事業を大きく縮小しました。

このため、新築物件や不動産ディベロッパーを対象とするTUB事業は2023年に売上収益が減少し、前年比で最大10%減少する見込みです。しかし、当社はTUB事業を安定化させることができたと前向きに捉えており、市場はおそらく底をついたと考えています。今後は、いったん小さくなった事業をベースとしながら積み上げていく考えであり、TUB事業の営業利益が足元で回復基調にあるのは歓迎すべきことです。

このようにTUB事業が安定化したことにより、やや楽観的な見通しで2024年を迎えたいと考えています。これが若月のコメントである「慎重ながら楽観的」の裏付けとなっています。しかし、実際にNIPSEA中国事業の成長を支えているのは、2023年に大きく成長したTUC事業であり、成長率は10%台半ばになる見通しです。TUC事業では約3年前から複数の成長戦略を実施しており、その成果が現れつつあります。

2021年8月に説明したTUC事業の戦略を覚えている方もいるかも知れませんが、3~6級都市への参入やカラー(色)戦略、主要都市でのBMD(ビジネス・ディストリビューション・マネジメント)を含んだ戦略についてご説明しました。

戦略の全てを実行するには時間がかかりますが、実行開始から3年が経過した現在、成長の兆しが見え始めており、全ての戦略が結実しつつあると認識しています。TUC事業の成長率は市場やGDPを上回って推移しています。

TUC事業は2024年も市場やGDPを上回る成長を続けると確信している一方、TUB事業は現在、非常に安定化した状態にありますが、新築市場が好転したと時にはその機会を捉えられると信じています。若月の「中国は当社にとって慎重かつ楽観的な市場であることは間違いない」という評価は私も全く同様です。

質問者:参加者A

  • A1 (ウィー)
    NIPSEA中国について、TUC事業のシェア拡大は持続可能と考えています。理由の1つは、成長の余地が十分あることです。
    TUC分野を見ると、NIPSEA中国のシェアは約27%で、競合他社のトップ2社のシェアはそれぞれ1桁台後半です。つまり、当社を含めたトップ企業3社が獲得できる市場はまだ50%近くも残っていることになります。また、過去1年で販売数量が減少したことから、今後景気が回復してくれば、新たな成長があると確信しています。
    当社は2年前に3~6級都市へ参入し、チームを配置するとともに、各市場に向けて適切な製品を開発してきました。重要な点としては、当社が持つ強いブランド力を活用することで、3~6級都市の現地企業と提携することができたことです。
    当社は、2つの側面から地方企業との提携が重要であると考えています。1つは、市場に最適な製品を提供するためには、従来の塗料・コーティング製品にドライミックスのモルタルやパテを加えなければならないという考えです。モルタルやパテ事業への参入を8~9年前に決断した際、当社は知識も経験もありませんでした。そのため、ビジネスを基本から学ぶべく、当初は工場建設や製造方法の習得から始める「アセット・ヘビー戦略」を採用しました。
    各地方の特定市場に向けた製品を製造し、市場に働き掛けることで、各市場のニーズを理解し始め、次第にこのビジネスを習熟し、知識を深めていきました。ある程度の自信と実力が付いたと判断した時点で、当社のブランド力を活用して、パテやモルタルの現地メーカーに提携を持ち掛けました。中国にはこうした数多くの中小メーカーが存在するため、NIPSEA中国と提携することで、当社のブランドや優れた技術、状況によっては購買力を利用して、ともに成長し、ビジネスを作り上げることを各社に提案しました。
    当社がブランドや技術、状況に応じた支援を提供する一方で、地方の提携企業の多くは現地で存在感を示し、工場を保有し、コネクションを確立しています。当社はこうした企業との提携を通じて、特に遠隔地の市場で設備投資をすることなく、提携企業とともに事業を成長させることで、「アセット・ヘビー」から「アセット・ライト」な戦略へ移行し始めました。これらは、ドライミックスとモルタルの事例です。
    その後、このビジネスモデルが機能すると自信を深めた時、今度は塗料・コーティング製品にも目を向け始めました。中国各地には、地域に密着した数多くの塗料・コーティング・メーカーが存在するからであり、当社が持つブランドや技術、一部の販売網と、現地企業の強みを組み合わせることで、さらなる存在感を高めることができます。
    こうしたパートナーシップは、消費者からの評価が高いブランドを当社が提供できるからこそ成り立ちます。この取り組みが立ち上がるまで時間がかかりましたが、2023年に成果が出ることを期待しています。この戦略には成長の余地があるだけでなく勢いもあるため、今後も実績を上げていくことができる見込みです。
    以上、ご質問に対する回答としては、「持続的な市場シェア拡大は実現可能」となります。
    さらに、3年前から積極的に推進している「カラー(色)戦略」も効果を現しています。新築物件数が少ない時期こそ、塗替え市場を喚起していく必要があると考えており、その方法の1つが住宅全体の美観にとってカラーが非常に重要な要素であるという認識を広めることです。
    中古住宅販売が低迷すれば通常、塗替え需要も低下します。当社としては、老朽化した住宅に住み続けていても、新しいカラーで塗替えることで気分を一新することができると消費者に訴えてきており、それが成果を収めつつあります。
    広告を通じて、当社が「マジック・ペイント」という製品を積極的に宣伝していることにお気付きの方もいると思います。「マジック・ペイント」はテクスチャー・ペイントですが、塗装が容易なことから従来のテクスチャー・ペイントの枠を超えた製品です。当社は、多くの塗装業者に対して「マジック・ペイント」の塗装研修を実施しています。「マジック・ペイント」は、多くの競合他社や当社が提供してきた従来のテクスチャー・インテリアの枠を超え、あらゆる壁に塗装することができます。
    当社はこうした「カラー戦略」を通じて市場の需要を喚起しています。宣伝活動、「マジック・ペイント」、そして「マジック・ペイント」の塗布を可能にした技術進歩に加えて、コンピュータ調色システム(CCM)の展開も重要な役割を果たしています。なぜなら、市場の需要喚起に成功した後は、顧客が全てのカラーや塗料を容易に利用できるようにしなければならないためです。
    こうしたことから、当社はCCMを積極的に市場へ投入しており、これまでに1万8,000台超を設置しました。推定では、現在中国国内に設置されているCCMの40%を当社が占めています。今後もおそらく年間1万台ペースで設置台数を増やしていく計画で、この戦略に関しては成長の余地がまだあると確信しています。
    他の市場、例えばインドと比較した場合、中国の在庫ベースのCCM台数はインドのわずか20%にとどまっていることからも、中国におけるCCM設置にはまだ拡大の余地があり、TUC事業は今後も成長し続けると見通しています。
    次に、「NIPSEAグループがNIPSEA中国とベストプラクティスを共有しているか?」という質問について回答いたします。私はいつも、特に中国のTUCは非常に変化の速い市場だと考えています。実際のところ、NIPSEA中国が他のNIPSEAグループからアイデアを得ているというより、多くの場合は、他のNIPSEAグループがNIPSEA中国からアイデアを得ていると考えています。つまり、NIPSEA中国がNIPSEAグループの他の市場に知見を共有し、新製品を提供しています。一見すると双方向でやり取りがありそうなものですが、実際には、NIPSEA中国が多くのイノベーションを他のNIPSEAグループに提供しています。
    日本グループの収益性については、第3四半期決算でご報告の通り、営業利益率は徐々に回復しており、2023年はおそらく9%台まで回復する見通しです。「2017-2018年の全盛期に記録した16-17%の水準まで回復可能か?」という質問に対しては、人材の補強や生産性の向上を通じて、その水準への到達を目指していきます。
    NIPSEAグループからのベストプラクティスの共有については、私はむしろ、アイデアの共有という観点から見ています。つまり、日本グループの従業員が日本グループの中で実際に機能すると判断したやり方を選択できるということです。大きなブレークスルー(突破口)となったのは、日本グループが、従来とは異なるやり方も有効だという自由な考え方ができるようになったことを挙げることができます。
    確かに「日本には日本のやり方がある」という考えが以前はありましたが、現在ではパートナー会社間、日本グループ以外の従業員との協力関係が強化されてきたため、従業員はこうした交流を通じて、異なるアイデアに触れることができるようになり、自らが選択したアイデアを採用することができるようになりました。
    日本グループが採用し続けている手法もありますが、それ以上に重要なのは、「J-LFG(日本版LFG)」による新たなマインドセットへの変革です。伝統的に成長が見込めないと考えられてきた市場でも、成長できるという考え(マインドセット)が生まれました。無駄を省いて、価値を高めるというマインドセットですが、コストを徹底的に削減するという意味ではなく、むしろ適切な分野には投資していく考えです。
    投資実績を見れば、当社が設備投資を進めていることがお分かりいただけます。岡山で新工場を立ち上げたほか、現在は新たに東京品川の事業所内に新技研棟を建設中です。
    日本グループの関係者は、「LFG(無駄のない成長)」は実現可能と考えています。当社は価値があると信じる分野への投資を続けると同時に、無駄を省いており、この2つは密接に関係しています。
    私は、足元の機運と新たなマインドセットにより、収益性を今後も改善することができると確信しています。新たな分野に参入し始めていることも、収益性の改善につながると期待しています。最近では、日本グループのさまざまな提携企業が提供するEV(電気自動車)関連製品をまとめて取り扱う1つの事業体(ユニット)を立ち上げるとともに、EV関連製品を市場に提供する取り組みを進めています。日本グループ内の各事業部門やパートナー企業が提供する最高の製品やサービスを単一の窓口を通じて顧客に提供するというものです。当社は、こうした新たな取り組みを通じて、日本グループが既に確立している強力な基盤を活用する機会を拡大できると確信しています。

質問者:参加者B

  • A1 (ウィー)
    当社は価格競争を懸念しており、非常に厳しい競争環境下にあることも認識しています。特に一般消費者向けの市場では、価格が決め手となるセグメントも一部確実に存在しています。消費者心理が冷え込んでいる市場では、消費者の一部が実際に低価格帯製品へシフトする兆しも出てきました。この傾向は、一般消費者向けのエコノミー製品の需要が高まっていることを示しています。
    中国塗料業界の一般消費者向け低価格製品の動向を見ると、ASP(平均販売価格)は確実に低下しており、価格面が作用していることは間違いありません。価格以外の要素は具体的に確認できない部分もありますが、当社は過去1年間で製品値下げを実施した一方で、原材料価格も低下しています。製造コストの改善に積極的に取り組んで費用をできるだけ抑えることで、競争に必要な余力を蓄えています。
    一例を挙げますと、当社はかつて、外装テクスチャー製品を巡って極めて強大な競合他社と競争を繰り広げたことがあります。その競合他社はその事業で大きな利益を上げている一方、当社はそれに対抗できる水準にまでコスト構造を引き下げることができなかったため、価格競争は不可能でした。しかしながら、不利な状況に置かれることで、従業員の能力が最大限に発揮されることもあります。
    当社は何ヶ月間にもわたって競合他社の後塵を拝していましたが、この製品に対する対策とアプローチを考案し、現在は競合他社をリードしています。競合各社よりも優位にマージンを確保できるコスト構造を構築することができたためです。一部セグメントでは、依然として価格競争が続いていますが、マージンは確保できています。
    マージンや価格とは別の側面としては、当社は「カラー戦略」を開始し、CCMを導入して以来、プレミアム市場で優位性を維持し続けています。こうした取り組みも、当社の主導的な地位に寄与していると考えています。製品レベルでは価格競争に直面している分野もありますが、全体的には各セグメントでマージンを維持できていると信じています。
    マージンに関しては、製品構成も寄与しています。この1年間でTUC事業が急成長を遂げた一方で、TUB事業が縮小しました。TUB事業は従来TUC事業に比べて平均的にマージンは低いため、両事業の売上比率が変われば、NIPSEA中国事業全体の利益率も変動します。このため、当社は少なくとも満足できる範囲で一定水準のマージンを維持できています。
    結局のところ、当社の従業員は、当社のブランドが確保できる最大の範囲において最高のマージンを実現するべく力を注いできており、当社は責任あるブランド・リーダーでありたいと考えています。このため、市場環境の破壊につながりかねない短期的な視点に立った製品値下げには決して同調せず、市場において信頼できる価格を維持していきます。
    今後も特にトップラインの伸長による営業レバレッジの活用を通じて、収益性を維持しながら、さらなる事業成長を実現することができると考えています。
    マージンの目標に関しては、従業員の奮闘を促したい考えです。現実を反映することが重要であるため、実現できない目標の設定はしませんし、目標をあらかじめ設定することもしません。代わりに、全てのセグメントで毎月、1つの数字をマクロ的に捉えるのではなく、各事業、各地域の特性を念頭に置いた上で、適切な決定を行うよう促しています。
    「2024年に経営環境が改善するか?」という質問については、2023年の住宅完工件数が順調に推移したことが背景にあると推測します。2024年の住宅完工件数は2023年に比べて減少する見通しですが、中国政府が未完成の集合住宅をできるだけ早く完成させたいと考えているため、完工件数は高水準で推移すると考えています。既に手付金を支払っている購入者が住宅に入居できるようになることで、市場の不安感も解消される見通しです。
    新築市場が2024年に回復するとは申し上げていません。当社としてはTUC事業により重点を置く一方で、TUB事業は適切な活動を継続していく方針です。より幅広い顧客に軸足を移しつつ、住宅セグメント以外の分野にも視野を広げていきます。
    TUB事業では、セントラルキッチンや病院、官公庁、学校などの特定分野へ製品を提供することも対象にしています。こうした取り組みによって特定分野の顧客を確保することで競合他社との差別化を図り、2024年に予想される住宅完工件数の減少に伴う悪影響を相殺することが可能になると考えています。こうした方針が経営環境の悪化の軽減に効果を発揮することを期待しています。

  • A2 (ウィー)
    当社の詳細な実績を全て把握してもらうことは困難ですので、この1年間にTUB事業で実施したことをご説明いたします。当社は多くの事業から撤退してきた一方、資金に余裕のある信頼できる顧客や製品のマージン向上に貢献できる顧客の確保に力を入れてきました。この結果、TUB事業の規模は約1割縮小しました。具体的には、大手ディベロッパーが開発する住宅分野を大きく縮小した一方で、新たな分野での成長や小規模ディベロッパー、建設請負業者へのサービス拡充でその縮小分を補っている構図です。
    競合他社は、小規模プロジェクトに対応するために雇用を拡大し、ディーラーとの提携も積極的に進めています。また、ある程度の受注量を確保するため、製品値下げも実施しているようです。
    当社は実際に現場へ足を運び、パートナー会社と密接な関係を築いています。各地域のパートナーに直接働き掛けることは、TUC事業で採ってきた戦略の1つです。パートナーに当社のブランドや製品を提供し、パートナーが現地で築き上げた関係を活用しながら、ともに市場を成長させたい考えです。
    現地パートナーとの取り組みでは、当社が「Nippon Paint」ブランドが持つ強みを現地のパートナーに提供する代わりに、現地パートナーが持つ顧客へのサービス対応やコネクション機能を活用することができます。現地パートナーの中には、従来TUB事業に含まれていた小規模事業を手掛けている業者も存在しますが、こうした小規模事業に対しては現在、TUC事業からアプローチしています。
    このように、現在では現地パートナーのリソースを活用して小規模事業に対応することによって、大幅に人員を増やす必要性に迫られていません。他方で、「Nippon Paint」ブランドの強みや購買力、価格決定力を現地パートナーに提供することで、全体として競合他社よりも良好な結果を残すことができると考えています。
    当社と競合他社の事業成長率を比較すると、TUB事業に全力を注いでいる競合各社に対して、当社はTUC事業を重視していることが分かるように、市場戦略に関しては微妙な差異があります。市場規模を考慮すると、当社と競合他社にとっては十分に成長できる余地があり、それぞれの方法ですみ分けができると考えます。長期的にどちらの戦略が良好な成果をもたらすかは現時点では分かりませんが、時間の経過とともに結果は明らかになるはずです。

質問者:参加者C

  • A1 (若月)
    M&Aの目的は極めてシンプルで、「株主価値最大化(MSV)」に貢献し、MSVに照らして整合しているかが焦点になります。このため、地域的な優先順位はあまり大きな意味を持ちません。
    当社が有する広範な製品構成を考慮すると、新たに補完しなければならない製品がある状況ではありません。いかなる場合であっても、M&AはEPSの拡大に寄与し、低リスクでありながらグッドリターンをもたらすことが必要です。バリエーションも重要です。これらの基準を全て満たした上で、当社が買収するアセットは優れた業績、財務状況を誇り、低リスクです。その所在地はさまざまで、最近ではたまたまカザフスタンとインドでした。当社は今後も多くの国・地域で買収の機会を探っていきますが、国・地域という枠組みは関係ありません。

  • A2 (若月)
    後でウィーが回答するかも知れませんが、低リスクでグッドリターン、低いバリエーションの魅力的な買収機会があれば前向きに検討していきます。ただし、適切なM&A候補が見つかる確率は、他の地域と比べると低いかも知れません。M&Aを実施しないとは言い切れませんが、M&Aを行うよりもむしろ、ウィーのこれまでの説明のように、既存事業の成長に力を入れる方が資本配分の観点からは良好な結果をもたらすと考えます。

    (ウィー)
    若月が述べた通り、中国にはM&Aの対象となり得る有力な候補が見当たりません。ただし、当社のアプローチと合致し、低リスクであり、理にかなった案件であり、有能な経営陣がいる場合は、中国やインドなどを含めて世界のどの国・地域であっても関心を表明します。反対にこれらの条件を満たさない場合は、世界のどの国・地域であっても当社は興味を示しません。当社のM&Aに関するアプローチでは、極めて厳格な方針を貫いています。
    パートナー会社間の協業に対する質問に回答いたします。ちょうど2年前、若月が「アセット・アセンブラー」による戦略とアプローチを資本市場に公表した時、当社グループのパートナー会社は真に独立・自律的な企業であると定義しました。当社はこれらのパートナー会社に対して、当社グループの資金力を活用しつつも各自の強みを発揮し、事業成長を実現するための自由闊達な活動を促しています。
    一方で、パートナー会社が相互に協力することで利点が生まれるならば、各パートナー会社に対して自由な相互交流を深め、成功事例などを含めて相互の強みを活用できるよう全力で支援しています。
    数年単位で展開している事例としては、アジア地域における「Selleys」ブランドを挙げることができます。「Selleys」ブランドは豪州とニュージーランドで大きな成功を収めていましたが、当社がDuluxGroup社を買収するまでは他の地域で有名なブランドではありませんでした。その後、NIPSEAグループがこのブランドを活用し、アジア各地で築き上げた販売網を利用することで、従来の塗料・コーティング分野とは異なるSAF(密封剤・接着剤・充填剤)分野で「Selleys」製品を展開しました。今後はSAF分野に限らず、家庭用品や洗浄溶剤(cleaning)分野でも「Selleys」ブランドを展開できると考えています。
    このように、アジアの幅広い市場で主力の「Nippon Paint」ブランドを補完しながら、流通網の強さを生かして「Selleys」ブランドを活用していくことで、第2の主力ブランドとして多くの棚を確保できると考えました。中国・アジアで「Selleys」ブランドの潤滑剤やSAFを大規模販売し、これまで塗料関連製品を取り扱っていなかった量販店などの大型店舗でも「Selleys」ブランドの製品を展開するようになりました。「Selleys」ブランドの導入によって新たな分野への進出が可能となり、この取り組みは現在進行中です。例えばインドにおいては、SAF、「Selleys」ブランド製品、「RP7」ブランドの潤滑油は、全て市場で販売されています。
    パートナー会社間の協力関係については、つまるところ、豪州のパートナー会社が実施している取り組みをインドでも導入することが可能です。理にかなった協業であるならばどこでも、MSVの考え方と完全に一致するのであればいつでも、当社の経営陣はひたすら前進するのみです。厳しく叱咤激励する必要はなく、経営陣は自律的、独立的な意志で本領を発揮し、価値を見いだせば正しい決断を下してくれます。

質問者:参加者D

  • A1 (ウィー)
    Cromology社はJUB社とほぼ同時期に買収しました。これらの買収は、西欧建築用塗料市場にDuluxGroup社を参入させる戦略の一環となっています。
    欧州は伝統的に低成長市場ではあるものの、Cromology社は低成長市場でありながらも、それを超えた可能性を有しています。フランスではプロ向け市場で強固な地位を築く一方、イタリアでは業界首位、スペインとポルトガルでは業界2位に付けています。さらには、スイスやモロッコなどの地域でも地歩を固めています。
    当社は、DuluxGroup社がプロ向けや小売市場で築き上げてきた戦略(playbook)を活用し、Cromology社が有する強力なプロ向け事業を補完することが可能と判断しました。Cromology社はプロ向け部門で非常に強固なプレゼンスを確立しており、今後も成長の余地があります。その成長が期待するほど大きなものにならない可能性もありますが、小売分野では大きな可能性を秘めていると判断しています。
    小売分野の開拓に自信を持つ理由の1つは、DuluxGroup社のチームが非常に有能であり、豪州での長年の戦略開発で培ってきた多くの知見を活用することができるためです。2つ目の理由は、Cromology社を買収する以前から、既にDIY市場で成果を挙げてきたフランスのMaison Deco社を取得し、豊富な人材を活用できる体制を整えてきたことです。このため、欧州市場の成長が鈍化していることは大きな問題ではなく、DuluxGroup社が持つ強みを生かして欧州市場で付加価値を提供することでCromology社のシェアを拡大する一方、Cromology社の強みを生かすことでDuluxGroup社とともに成長を実現することが可能と確信しています。
    買収時期がコロナ影響と重なったことは不運だったかも知れませんが、コロナ関連規制が厳しくなればなるほど塗料の消費量が増えていきました。コロナ影響の収束とともに塗料消費量は減少し、フランス市場は低迷しましたが、3四半期ほど前から事業環境は改善の兆しを見せ始め、2024年に向けて状況はさらに改善する見通しです。
    DuluxGroup社は現在、豪州とニュージーランドを管轄するDGL(太平洋)と、欧州を管轄するDGL(欧州)の2部門に分かれています。Cromology社も含めたDuluxGroup社全体の成長率は2023年に2桁台前半になる見通しで、豪州とニュージーランド市場で記録した成長率よりも高い伸びを示す見込みです。成熟した先進国市場であることを考慮すれば、称賛に値する結果と言えます。
    当社は成長が鈍化する先進国市場であっても、適切な創意工夫を重ねることで、成長を維持しながらシェアを獲得し、新たな商機を見つけることができると確信しています。

    (若月)
    ウィーのコメントを補足しますと、Cromology社の買収もEPS成長に貢献しています。資本投下によってEPSの拡大につながっており、アジア市場の成長に比べると低水準ながらも、EPSは着実に拡大しています。
    「経営が難しい会社なのか?」という質問に対しては、「いいえ、キャッシュを創出しています」と回答いたします。ウィーがお伝えした通り、実際に成長を維持しています。これこそが当社のアセットの積み上げ方であり、「アセット・アセンブラー」モデルの要諦です。買収に踏み切ったことの是非については、買収によってEPSの積み上がったことから、適切な判断であったと考えます。

    (ウィー)
    当社は資本市場の皆様に、「アセット・コンパウンダー」、あるいは「EPSコンパウンダー」と捉えていただきたいと考えています。EPSの積み上げに悪影響を及ぼすようなM&Aは行いません。
    サクセッションについては、NIPSEA中国だけでなく、グループ全体として後継者問題を常に視野に入れていますが、グローバルで事業を展開する競合他社の方針とは少し異なるかもしれません。当社は経営陣がある一定の年齢に達した場合に引退させるという規定はなく、NIPSEA中国も同様です。
    例えばインドネシアでは、新しいリーダーが誕生したばかりです。前任のリーダーは73歳で引退しましたが、健康で体力もあり、毎年業績に貢献していました。年齢が若くはないことは承知していましたが、当社は適切な人事と確信していました。本人から「次のステージに進みたい」と申し出るまで、後任を任命する予定はありませんでした。
    当社はEPSと価値創造に全力を注いでいます。継続的に価値を生み出すリーダーがいる限り、当社としてはリーダーを交代したくはありません。もちろん、「あるリーダーが長期間にわたってその地位を独占していれば、新たな才能はどうなるのか?若手の希望をかなえることはできないのではないか?」という意見もあるかと思います。この点に関しては、当社を成長し続けなければならない私と若月の責任となり、成長を続けるさまざまな事業分野で成長中の若手人材が各自の才能を有意義に発揮できるようにすることです。当社にとってのサクセッションとは、下から押し上げさせるのではなく、上にいる人たちを適切な時期に交代させることであると考えています。
    NIPSEA中国では、逆風が吹く事業環境下にあって、事業は順調に成長しており、トップラインが伸長しているだけでなく、参入した全ての分野で成長を実現しました。過去5~8年間を振り返ってみても、参入できていなかった多くの分野がありましたが、現在は急成長している若手リーダーらの意欲に応えることができる複数の分野が成長しています。
    NIPSEA中国の職務レベル「N-1」には既にかなりの動きがあります。「N-1」に位置するリーダーの何人かは既に引退し、若手リーダーが引き継いでいます。NIPSEA中国のCEOが高齢であることが特に問題とは考えていません。むしろ、「N-1」や「N-2」に属する若手リーダーが活気にあふれ、成功していることの方が重要であると考えています。現CEOが価値をもたらし、「N-1」と「N-2」のリーダーを成長させながら、従業員が働くことに喜びを感じ、当社が利益を上げ続けることで株主が満足している限り、CEOを交代する必要はないと考えています。

  • A2 (若月)
    考え方の違いと思います。繰り返しになりますが、当社が買収するアセットの品質は極めて高く、間違いなく十分な利益を回収しています。そのため、EPSの積み上げを通じて、MSVを達成できると考えています。

質問者:参加者E

  • A1 (ウィー)
    端的に言えば、「そうしたくない」というのが回答になります。中国当局が民間不動産ディベロッパーのデレバレッジ(過剰債務削減)を強制するために「三道紅線」政策を導入して以降、多くのディベロッパーが破綻したことで、当社や競合他社は打撃を受けました。当社も競合他社も競争優位に立つために、不動産ディベロッパーと与信取引を行っていたためです。
    当社はこうした経験から教訓を得ました。冒頭で述べた通り、TUB事業を縮小した理由はここにあります。当社は取引相手の選択に慎重を期しています。マージンの高い顧客を確保したい一方で、長期の与信を求めるような顧客とは取引を避けたいと考えています。
    このように、当社は大きな痛手を負ったため、市場シェア拡大に向けてバランスシートを活用することに慎重になっています。当社が多くの事業で地方のパートナーの強みを活用しているのも、こうした理由からです。若月が述べたように、絶対しないというわけではありませんが、極めて慎重にならざるを得ないのです。

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