IR DAY 2024 質疑応答要旨

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DuluxGroup ブランド戦略

質問者A

  • A1当社が管理する全てのブランドに共通する哲学は、消費者は塗り替えをめったに実行しないという事実、つまりは「やるからには、きちんとやろう」という姿勢と結び付いています。消費者はリスクを避け、安心を求める傾向があり、それが損益計算書の観点からどのように現れるかについて考えてみたいと思います。オーストラリア証券取引所に上場していた時の私の経験では、投資家はこのように考えるからです。

    当社が属する市場は通常、年間で約1%の数量成長を遂げており、市場シェアの拡大によって売上が若干増加します。市場シェアを40%と仮定した場合、その40分の1、つまり市場シェアが1ポイント増えるごとに売上が2.5%増加します。通常は価格面からも若干の売上を得られますが、これは単に販売価格を上げるだけでなく、製品ミックスやイノベーション、それをサポートする取り組みによるものです。数量が1%増加する市場では、売上成長率はおよそ1桁台半ばになります。

    当社の成熟事業は全て非常に安定した成長を遂げており、適切かつ健全な粗利益を確保しています。その段階に達すると、求めるのは販売価格が投入コストをカバーすることのみであり、投入コストが2%上昇し、販売価格を2%引き上げた場合、投入コストの比率は維持されるため、粗利益率は売上収益と同じ割合で増加します。

    その上で、インフレや豪州国内の給与・賃金の上昇率(通常は3%程度)に合わせて固定費を管理しています。しかし、先ほども申し上げたように、当社はマーケティングに対して重点的な投資をしています。売上収益が5%増加すれば、マーケティング費用も5%増加します。

    例えば、営業利益率が15%の事業を獲得した場合、利益率を戦略的に維持しながら市場シェアを拡大し続ける、あるいは、周辺分野の事業を追加できるようなポジションを築くことを考えます。

    営業利益率8%、市場シェア20%の事業であれば、利益率とシェアの両方を伸ばすことを目指します。

    しかし、最終的な目標は、健全なトップシェアと堅実かつ安定した営業利益率を確保し、その哲学に基づいて成長し続けることです。

    その上で、先ほどのプレゼンテーションからもご理解いただけたように、当社は現状にとどまることはありません。

    Dulux建築用事業から始まり、ウッドケア事業、保護用コーティング事業、粉体塗料事業へと成長し、現在はSAF(密封剤・接着剤・充填剤)や建築化学品(CC)事業も展開しています。

    Selleysブランドの密封剤・接着剤事業を買収し、Yatesブランドのガーデン事業にも参入しました。直近ではSeasolブランドのガーデン事業を買収し、今後はさらに業務用ガーデン事業への参入も検討しています。

    このような粒度の細かい成長もまた、当社の哲学の1つの側面です。

質問者B

  • A1最大の違いはデジタルの導入と考えます。なぜなら、従来の非デジタル世界ではマーケティング費用の1/3を広告とコミュニケーションに費やすのが通常で、それは日曜夜の映画で効果的なテレビCMを流すのと同じくらい容易いことだったのかも知れません。マーケティング費用の1/3は色材に費やしていました。例えば、Bunningsの店舗に行けば色見本を持ち帰ることができて、それがマーケティング費用の大部分を占めるからです。残りの1/3は、市場調査から人件費などのマーケティング関連費用に使っていました。

    この10年間で明らかにデジタル化が加速しています。塗装業者(Trade Painter)向けのサービスを例に取れば、iPhone版の「Dulux Trade」アプリを立ち上げれば、オンラインでいつでもどこでもどんな製品でも購入できるようにしました。唯一最大の変化としては、消費者や住宅所有者がカラー・コンサルタントとオンラインサイト上でチャットができるようになりました。このように、当社はマーケティングに重点を置いた投資を行っています。

    そうした中で、当社は現在でもテレビ広告を行っています。なぜなら、当社が属する市場において、消費者にリーチする主たるマーケティング手法としてはテレビ広告が最良だからです。

    ある意味、私がお伝えしている内容にそれほど目新しいものはないかも知れませんが、それは従来の手法と、デジタルがもたらした新しく、素晴らしい機会を融合させたものです。

  • A2当社の哲学は、数量と価格の両面で市場を凌駕し続けることです。そうすることで、大幅な売上成長が可能となり、それに応じてマーケティング費用も増やすことができます。

    このように考えると、当社のマーケティング投資は売上収益に対して一定の割合となります。売上に占めるマーケティング費用の割合が変わることは想定していませんが、売上成長に伴って利用できるマーケティング予算は変化し、柔軟性は大きくなります。

    マーケティング投資をうまく実施できれば、いわば再投資に向けた好循環が生まれます。

    そして、優先順位を付けながら支出の最適なバランスを検討するのは、各事業のマーケティング責任者の役割です。デジタルとテレビ広告の選択、そして先ほどご説明したその他の活動です。

    結論として、売上収益に占めるマーケティング費用の割合は横ばいですが、マーケティングの絶対的な投資額は売上成長に合わせて増加しています。

質問者C

  • A1当社がオーストラリア証券取引所に上場していた当時、会社売却の意向はありませんでした。トップクラスの業績を上げており、このような状況で他社に買収されるようなことはあまりありません。しかしながら、当社の歴史は、市場を上回る成長を遂げている優れた企業であったとしても買収される可能性があることを示しています。当社が買収に応じた理由はさまざまあります。

    日本ペイントのゴー・ハップジン、ウィー・シューキムをはじめとする経営陣が当時の株主に買収を持ち掛け、圧倒的な支持で受け入れられた際、ゴー氏と面会したことを覚えています。ゴー氏からは、DuluxGroupの経営陣として何をしたいのか?その理由は何か?と尋ねられました。そして、日本ペイントが株主となり、DuluxGroupの野心が「株主価値最大化(MSV)」というミッションと一致する限り、日本ペイントはその実現に協力すると言われました。

    日本ペイントは、「自律・分散型経営」に基づく「アセット・アセンブラー」モデルをベースに、「Let 1,000 flowers bloom(千の花を咲かせよう)」というモットーや、パートナー会社の役割、アカウンタビリティを伴った自律性の重要性を語ってくれました。私は、これは本当に重要なことと考えています。

    私はDuluxGroupの経営陣とともに、日本ペイントの経営理念を受け入れることを決定しました。日本ペイントの経営理念はトップ200人のリーダーたちにも受け入れられ、そのほとんどが5年後の今日に至ってもなお在籍しています。彼らが日本ペイントの企業文化に愛着を抱き、機会を享受していることの現れです。

    当社は厳格なコンプライアンス基準を保っています。監査・リスク委員会、報酬・人事委員会、安全・サステナビリティ委員会など、引き続きオーストラリア証券取引所の上場会社に求められる基準に沿って運営しています。

    当社は日本ペイントグループのパートナー会社モデルの活用に集中しています。ICI傘下時代に蓄積した知識、オーストラリア証券取引所の上場企業としての知識、そして、現在の日本ペイントグループからのサポートとアカウンタビリティを伴った自律性の推進を最大限に活用していく意向です。

NIPSEAグループ ブランド戦略

質問者A

  • A1グラディス・ゴー
    市場の多様性を考慮すると、ご質問に対する正確な回答は難しいかも知れませんが、どのような市場に参入するにしても、潜在的な投資回収率(ROI)の評価は欠かせません。投資を実行する前に、達成目標であるROIを明確化する必要があります。

    プログラムの費用対効果を評価する場合、実地活動を含むかどうかにより大きく左右されます。実地活動のROIは、特設ブースの訪問者数、訪問者とのやり取りからはじき出したブランド転換率で測定しています。デジタル広告や実地プロモーションのいずれでも、各タッチポイントで独自の評価基準が必要なため、1つの指標から費用対効果を算定することは困難です。

    広告においては、割り当てられた予算の範囲内で最大限達成できた認知度、顧客へのリーチ数、頻度に基づいて費用対効果を評価します。

    デジタルプログラムの効果は、クリック数、当社ブランドの検索数、Eコマースのリンクが含まれている場合のコンバージョン率などの指標をトラッキングすることで測定します。さらには、これらのやり取りが実際のコンバージョンにつながり、それらがカスタマー・ジャーニー(顧客が製品を購入し、利用・継続・再購入するまでの過程)の完結に寄与しているかを評価します。こうした評価は、特定の時点で投資を実施しているマーケティング手法の種類によって大きく左右されます。

質問者B

  • A1グラディス・ゴー
    当社の市場は非常に多様なので、まだ当社がドミナンスを獲得できていない市場ではさらなるシェア拡大を見込める余地がたくさん残されています。これらの市場でどのようにシェアを拡大していくかが重要です。

    しかし、既に強固な地位を築いている市場においては、現在のシェアを活用してしながらどのように既存の顧客との関係を深め、既存の顧客に対していかに多くの製品を販売していくかを検討します。

    例えば、塗料にとどまらず、建設資材や塗装ツールの販売を視野に入れています。これは、単に市場シェアを確保するだけでなく、顧客1人当たりの支出増加を促すためです。既に当社ブランドと強固なブランドエンゲージメントがあり、当社塗料の販売先である顧客基盤でさらなる販売拡大を目指しています。

    こうしたアプローチには、市場ごとに異なる戦略が必要となります。シンガポールやマレーシア、トルコなどの既に当社が圧倒的なシェアを誇る市場では、高機能塗料などの高付加価値製品の販売に重点を置き、塗料以外の製品ラインアップの拡充を図っています。当社がまだ圧倒的なシェアを獲得していない市場では、まずシェアの拡大に力を注いでいます。

    既に大きなシェアを確保している市場での成長戦略は、塗料と周辺分野における顧客1人当たりの支出増加に重点を置いています。シェアの大きな市場ではより多くの製品を提供することで顧客1人当たりの支出拡大につなげ、今後の発展が見込まれる市場ではシェア拡大に重点を置く成長戦略を進めています。

    若月雄一郎
    DuluxGroupのパトリック・フーリハンが先ほどブランド戦略に関するプレゼンテーションでご説明したように、低成長市場であっても価格戦略と市場シェアの拡大を通じて売上成長が可能であるとの指摘は重要なポイントです。

    それゆえ、例えば75%という大きなシェアを確保している市場では、シェア拡大を目指すことだけが目標にはなりません。グラディス・ゴーが説明した通り、当社は塗料以外の製品販売に注力することも可能で、既存の製品ポートフォリオを活用すれば大きな可能性が広がります。特定の市場で大きなシェアを獲得している事実が、当社の成長可能性を阻む要因にはなりません。

質問者C

  • A1グラディス・ゴー
    ディーラーの販売網を拡大すれば、確実に増設余地が生まれます。新市場に参入する、あるいは新たなディーラーと提携する場合、全ての市場で優位に立っているわけでははいことを自覚しています。新規出店やCCMの新設に相応しい魅力的な市場の開拓にも積極的に取り組んでいます。

    当社CCMの差別化要因としては、CCMと互換性を持つ幅広い製品を提供している点になります。この点が、外装用、内装用、木製資材などの特定種類の塗料にのみ焦点を絞っている競合他社のCCMと一線を画しています。当社の産業用CCMは、業界で初めて水性塗料と溶剤塗料の両方に対応しているのが特徴です。

    当社のCCMは壁や木製の装飾トリム、ドアだけでなく、屋根や床用、保護用、工業用でも同じ色の塗料を提供することができます。複数の国・地域で、色見本(color collateral)とカラーコードを統一しているのも大きな利点となっています。例えば、シンガポールとマレーシアで同じカラーコードを使用できるため、当社のCCMはアジア各国で塗料と色の採用を拡大するための非常に重要なツールとなっています。

NIPSEAグループ 事業戦略

質問者A

  • A1当社は1~2級都市でかなり優位な地位を築いており、両都市でほぼ同じ程度の市場シェアを確保しています。1~2級都市の売上は全体の約80%を占め、急成長を続ける3~6級都市は約20%ですが、大きな将来性があると考えています。

    3~6級都市では、現地の競合他社に対抗するべく、顧客層をさらに絞り込み、差別化した製品セグメントを投入し、より現地に特化したアプローチが必要と考えています。そのため、過去3年間で3~6級都市に軸足を移し、組織的で体系的に事業を展開しています。

    Phoenixのディーラーやパートナーの中には、過去に現地で競合していた企業もあります。Phoenix各社は現在、これまで積み上げてきた多くのリソースを投入し、それぞれの流通チャネルへのアクセスを当社に提供しています。さらに、当社のブランドと製品技術を活用し、市場でのコスト競争力を強化しています。当社はPhoenix各社と共同で、市場機会の開拓と開発に取り組んでいます。

  • A2「NIPPON PAINT」ブランドのTop of Mindスコアは全ての都市階級、世代、製品、価格を含めた全体で51%に達しており、大きな存在感を示しています。海外製品や国際的なブランドは伝統的に大都市で地歩を築いてきましたが、当社ブランドが世界的な競合他社と異なるのは、全ての都市階級、世代、製品分野でTop of Mindスコアが高い点です。従来の重点市場だった1~2級都市以外にも軸足を移すに当たり、中国全土で高い認知度を誇る強みを最大限に活用しています。

    他市場への参入に当たっては、ブランドの強化だけではなく、流通網の構築が不可欠です。3~6級都市で成功する鍵は、広告や宣伝活動、カラーリーダーシップを通じて、強力なブランド認知度を維持することです。流通網の構築は、営業拠点を数多く設置するだけでは不十分です。現地のパートナー企業と協力しながら製品の販売と市場への浸透を迅速に図り、適切な価格帯の適切な製品ポートフォリオを整えることで、大都市の市場とはやや傾向が異なる地方都市で競争できるようになります。

    説明資料の16ページでは、3~6級都市に特化した製品を紹介しています。これらの製品は地方の農村地域に特化しており、地方の不動産を美しい住宅に変えるよう設計しています。こうした製品の導入を通じて、現地の競合他社と激しい競争を繰り広げています。

    私が特に強調したいポイントは、「中国は1つの市場だが、実際には非常に多様性に富んでいる」点です。当社は市場の状況を理解・把握することで、広範囲の全国的な戦略を採用するのではなく、各市場に特化した独自の戦略を打ち出すことを可能にしています。

    こうした戦略は着実に成果を上げています。現時点では、売上高の80%を1~2級都市が占め、残り20%を3~6級都市が占め、3~6級都市では売上が急速に伸びています。中国市場がまだ回復途上にあり、依然低迷しているという見方が水を差していますが、当社は中国市場の先行きを静観しています。不動産市場の立ち直りはまず1~2級都市から始まり、3~6級都市はやや遅れて回復する可能性が大きいと考えています。このため、当社は引き続き製品開発やパートナー会社との関係構築、チームの強化などの足場固めに取り組んでいきます。3~6級都市の市場が本格的に回復する際には、現在の成長率をさらに上回る成長を実現できると見込んでいます。

質問者B

  • A1新規顧客の開拓や展示会への参加、新たなステークホルダーとの関係構築などに関する説明資料を見れば、マーケティング費用がかさんでしまうのではないか、との懸念が生じてしまうかも知れません。

    当社にとって重要なのは、市場に対する信念や中国における過去3年間の経験、競合他社の情報です。当社は過去3~4年間で、全国に展開する大手不動産ディベロッパーからさまざまな分野へと事業の重心を移しました。伝統的に不動産分野で強固な地位を築いてきた競合他社が、短期的な成長が見込める商業分野に軸足をシフトした事例もあります。

    BtoB市場は価格競争が激しく、投資家の懸念を招いています。競争が激化する市場では、マーケティング予算の増額によってコストが増加したり、市場シェアの獲得に向けて販売価格を引き下げたりする可能性がありますが、これが中国の現状です。

    Nippon Paint Chinaでは、コスト競争力の維持に注力しています。主力商品は小売り用のエマルションで、売上全体の50%近くを占め、2桁台のマージンを維持しています。しかしながら、低価格帯製品の販売数量が増加するなどの製品ミックスの変化により、前四半期比で事業全体の利益率は低下しました。さらには、一部のサプライヤーから当社へ原材料供給の依頼があったため、製品ミックスに変化が生じています。そのため、塗料以外の製品や半製品の売上が伸びる結果となりました。

    また、パテやアクセサリーなどの塗料周辺分野が成長し、塗料と周辺分野の製品ミックスにも変化が現れています。当社はこうした変化にも関わらず、利益率が前年と変化しておらず、かつ収益性の高い小売り用のエマルション分野に注力しているため、マージンの確保に自信を持っています。

    当社はその他の事業分野でコスト効率を維持することで、ブランドに対する投資を適切に配分しています。これには、配合コストの管理、最適価格での原材料購入、物流効率の最適化、販売管理費の抑制などが含まれています。コスト効率の維持は多方面に及んでおり、ブランド構築とマーケティング費用がコスト全体に占める割合はわずか2~3%を占めるに過ぎません。

質問者C

  • A1先ほどの説明資料で、NIPSEA中国と中国以外の地域を巡って、過去3年間の営業利益と営業利益率の平均成長率をご説明しました。2021~2023年には世界的にコロナ影響に見舞われ、特に中国ではゼロコロナ政策が国民生活に大きな影響を与えました。当社はこうした状況下、サプライチェーンの混乱やウクライナ、中東における紛争の影響、原材料価格の変動に直面し、それらに取り組まなければならないリスクを抱え込みました。

    リスクを軽減するための万能なアプローチはないと考えます。これはNIPSEAグループ、日本ペイントグループの経営戦略とも合致しています。当社は、優秀な現地経営陣の見解に注意深く耳を傾け、現地経営陣の自律性と独立性を与えながら、グループとしての支援を提供しています。こうした分散型のアプローチは、リスクの軽減に役立ち、1つの事業がグループ全体に影響を与えないようにしています。

    こうしたリスク管理手法は、新たなパートナー会社にも適用されます。DuluxGroupのパトリック・フーリハンが先ほどご説明した通り、新たなパートナー会社は当社のアプローチの速やかな導入と適応により、変化を遂げます。当社の唯一のミッションは、利益の創出と株主価値の創造を目的とした「株主価値最大化(MSV)」です。

    当社は、既にある程度生じている技術や貿易のデカップリングなど、世界的な非連続性の可能性を認識しています。当社はこうした課題にも対処できるよう組織化しています。例えば、NIPSEA中国とマレーシアグループは、ITシステムやステークホルダーへの対応をそれぞれ別に取り組むなど、明確に運営を分けています。当社はこうした体制を構築することで、デカップリングの可能性に備えています。

    構造変革に関しては、常に変化し、柔軟に対応しています。例えば、当社は3年前、日本ペイントグループへのリスクがあると判断したインド事業と欧州自動車用事業の売却を決定しました。その2年後には、インド事業が当社基準を満たしたことから、買い戻しを決定しました。欧州自動車用事業に関しては現在も様子見を続けていますが、現在の関係を通じて欧州の自動車メーカーとのつながりを維持しています。当社はMSVの哲学に合致するかどうかを判断基準としながら継続的に適応しています。

質問者D

  • A1塗料と建設化学品(CC)の統合については、従来これらは別のカテゴリーであり、競合企業も異なっていましたが、過去5~10年間に塗料分野の企業が建設化学品分野に進出し、その逆も起こりました。例えば、インドでは、密封剤、接着剤、建設化学品に非常に強い企業があり、現在は塗料分野に参入しています。同様に、中国では、防水剤で知られる企業が塗料分野に進出しています。

    日本ペイントグループでも、さらに幅広い事業分野への展開を目指す「アセット・アセンブラー」を打ち出す前の5年前でさえ、「Paint++」のアプローチを考えていました。この戦略は、塗料に関する専門知識を生かし、両セグメントに共通する化学や流通チャネル、市場の洞察力を活用します。DuluxGroupを当社グループに取り込んだことにより、特に強みを持つSAF(密封剤・接着剤・充填剤)分野とDIYブランド「Selleys」に関して、当社の能力をさらに強化しました。

    中国とマレーシアでも能力を拡充しました。マレーシアではVital Technical社を買収し、ドライミックス、モルタル、パテの事業を立ち上げました。「Paint++」戦略は、当社の既存の強みを基盤としながらリスクを軽減します。

    「Paint++」戦略を初めて検討した5年前、特にSAF分野は魅力的と考え、当社は方向転換し、DuluxGroupの買収をきっかけにSAFの成長に注力するようグループ各社に求めました。DuluxGroupは「Selleys」ブランドを軸とする強力なSAF事業をもたらし、NIPSEAグループはそれを統合することにより、中国では能力開発につなげました。マレーシアでは、SAF分野でVital Technical社を買収後、CMI社を買収したことで、ドライミックス、モルタル、パテの事業を立ち上げました。

    「Paint++」は、化学、流通チャネル、DuluxGroupからのサポートによる強みを活用するリスクの低い戦略となっています。建設化学品事業のさらなる拡大も検討していますが、当社が重点を置く化学と販売チャネルから少し外れることになります。例えば、中国では既存の流通チャネルを活用しながら、塗料事業と関連性が深い建設化学品を開発しましたが、一部の塗料販売業者は適応に苦戦しています。そのため、接着剤や防水などの分野に特化した専門販売店を設立することにしました。こうした多角化を通じ、当社の市場へのアクセスは拡大しています。

    まとめると、塗料と建設化学品はほぼ統合されつつあり、当社は買収と市場構築の取り組みの両方で学び、投資を行っています。

    インド市場の競争環境に関しては2024年、組織化された市場に2~3社の有力企業が参入しました。今後さらに競争は激しくなる見通しですが、NIPSEAグループのインドでの存在感はまだ小さいため、当社への影響はほとんどありません。同様の状況が中国やマレーシアで生じた場合、影響は異なります。中国では市場が統合され、従来の顧客基盤が変化しているため、塗料分野で事業経験を持たない新規参入企業が成功する可能性は低いと考えます。競争相手は、市場での存在感を高めている現地の中国企業になる見込みです。

    マレーシアグループにおいては、9ヵ国・地域のダイナミックな多様性により、新規参入のリスクは低くなっています。それぞれの地域で異なる対処が必要となります。

    非常に前向きな事例としては、2006年に進出したパキスタンがあります。当初は建築用に注力し、順調に成長してきましたが、現在では自動車用が主な成長分野となっており、自動車部品向けで約80~85%の市場シェアを占めています。成功を収めた理由は、業界で大きな力を持っていたパートナーシップが解消され、これによって生じた市場の「空白」を当社が事業機会と捉えることができたためです。こうした急速な成長は、市場の機会を活用することができる当社の能力を証明しています。

    日本グループからの強力な支援もあり、パキスタンの市場シェアはわずか1年半で約15%から80%超にまで拡大することができました。同じ状況が当社で発生した場合、何が起きるのかという懸念を招くかも知れません。競合他社が参入し、市場シェアを大きく獲得する可能性はあるのでしょうか?その可能性はありますが、当社は現在の地位を強力に守る準備ができており、競合他社に市場シェアを奪われることはありません。

  • A2中国における新しい市場環境に当社がどう適応しているかを示す図表があります。当社は現在、公共部門と事業部門、消費者部門の3部門をターゲットとしており、ご質問の通り、公共部門と事業部門は新たに対応可能な市場と見なしています。2020年以前は、大手不動産ディベロッパーを主な顧客と捉えていました。当時は活気ある市場であり、当社が競争する上で必要な分野でしたが、その後は市場が低迷してしまいました。

    2020年以降、当社は市場の低迷によってもたらされた機会を活用し、能力の強化に乗り出しました。新たな地域の再開発や新工場の建設など、公共部門の調査に乗り出しました。事業部門では、電子機器、食品加工、製薬業界に特有のニーズに対応しています。両部門とも独自の要件があり、当社はこれらのニーズを満たすソリューションを開発しました。

    当社がこうした大きな市場を見逃さなかったことは幸運でもあり、謙虚な姿勢が必要なことを認識する機会となりました。2020年からの景気後退は、これまで見落としてきた事業機会を提供してくれました。先ほどの説明資料でいくつかの図表を使用しながら、過去3年間の取り組みを紹介した通り、当社は新規顧客を獲得する中で成果を挙げつつあります。

    当社は低いベースから成長していますが、大手不動産ディベロッパーで構成される市場の低迷を乗り切ることができると考えています。主に大手不動産ディベロッパーを対象としていたTUB事業が大幅に縮小したものの、NIPSEA中国全体の売上収益は減少していません。他の収入源でこれを補っているためです。

    当社はこうした戦略転換を通じて、新分野で成長し、成功するための十分な時間を確保することができると見込んでいます。

質問者E

  • A11992年に中国に進出して以降、海外ブランドであることに伴うリスクは絶えず存在していますが、現時点でそうしたリスクが以前より高まっているのか、あるいは低くなっているのかは明確に判断できません。当社は1992年以来、中国市場では「NIPPON PAINT」ブランドではなく、中国語の「立邦」ブランドで事業を展開してきました。中国の消費者は当社のブランドに関して、何よりもまず「立邦」を思い浮かべると思います。

    当社は単なる日本ブランドではなく、国際的なブランドとして認知されるよう細心の注意を払ってきました。しかし、これは日本企業としての立場を捨て去るという意味ではなく、自動車用事業では日本企業としての立場を大いに活用しています。ただし、「ブラックスワン」イベントが発生する可能性を完全に無視することはできません。

    当社はこうしたリスクを軽減するため、中国と深く結びついた国際的なブランドと自社製品を位置付けています。2024年11月に上海で開催された中国国際輸入博覧会(CIIE)では、「In China, for China(中国で、中国のために)」というテーマを掲げ、中国のパートナー会社と国際的な事業経験に基づいて共同開発した製品を展示しました。例えば、都市部の大気汚染問題に対処するために開発した光触媒製品は、中国の大学2校と共同開発した技術を活用しました。

    光触媒製品をCIIEのブースの目立つ場所に展示したところ、とても大きな手応えがあり、多くの地方政府の幹部たちが強い関心を示しました。彼らは各自治体の予算と政策に組み込む方向で検討するべく、サンプルを持ち帰りたいと強く要望しました。

    特に地方政府の幹部の関心を引き付けたのは、当社が国際的な事業を展開しながら、中国市場に特化した製品開発を地元に密着しながら手掛けているという事実でした。彼らは、当社が中国特有のニーズを把握し、「In China, for China(中国で、中国のために)」というモットーで全ての製品を現地で生産していることを高く評価しました。こうしたアプローチは、当社の中国市場重視の姿勢を示すだけでなく、現地開発プロジェクトのパートナーとしての信頼性・信用性の向上にもつながっています。

    当社は現地の要件と密接に擦り合わせながら製品開発と生産を行い、現地当局と協力することで、潜在的な地政学的リスクを軽減し、中国の成長とイノベーションに貢献する価値ある企業としての地位を強化したい考えです。

    このようなアプローチは、当社のブースを訪問し、当社の画期的な製品を予算に組み入れることに関心を示した地方政府の幹部の共感を呼びました。彼らは、国際的な企業が中国と緊密に協力しながら、中国市場に特化した製品を開発していることを高く評価しました。当社は中国特有のニーズに焦点を当て、現地で生産することで、「ブラックスワン」イベントの潜在的なリスクを軽減することを目指しています。

ガバナンス

質問者A

  • A1中村 昌義
    株価の推移はこれまでも取締役会で話し合ってきたトピックの1つです。数年前、あるいは2018年以前にもさかのぼりますが、当社の株価がいわゆる中国プレミアムを享受していたことは間違いありません。しかし、アジア合弁事業100%化の完了後には、当社の株価は中国プレミアムに支えられることはなくなりました。

    そして残念ながら、単に中国プレミアムを失ったというよりも、いわば中国ディスカウントとも言える状況へと移ってしまいました。加えて残念なことに日本の株式市場では、当社は中国関連の銘柄の1つとして認識されています。一方で、ウィー・シューキムと若月雄一郎が説明したように、当社の中国事業は競合他社に比べて好調であり、今後も同様の推移を見込んでいます。それゆえ、私たちは中国での事業拡大に継続的に取り組んでいます。こうした取り組みは、好調なDuluxGroupとDunn-Edwardsに加え、業績が回復しつつある日本グループとともに引き続きEPSの成長にプラスに働くと考えています。

    AOCの買収は、株価のパフォーマンスを向上させるための戦略の1つで、最終的に私たちが掲げるMSVの追求というミッションの実現に大いに貢献すると確信しています。

    株式市場は市場そのもののダイナミクスに従って動くものであり、だからこそ私たちは当社の取り組みが資本市場で評価いただけるよう、さらなる努力を続けています。遅かれ早かれその成果が現れると考えており、この視点は、取締役会での議論を経て、各取締役とも一致しています。

  • A2中村 昌義
    当社にとっては、中国市場は引き続き成長の可能性を示しており、将来的に中国ディスカウントの緩和を見ることができるかも知れません。当社がそのような期待を抱くことが妥当かどうかは、市場の判断にお任せすることになりましょう。

    ステークホルダーへの責務を果たした後の残存価値を最大化するという観点からは、実際に中国におけるビジネスはEPSに好影響を及ぼしています。またさらに、AOCの買収は完了直後からポジティブな効果を期待していますが、当社の戦略、特にポートフォリオマネジメントの面では、これらの短期的なEPS拡大のみならず、短期的にかつ長期的なMSVの追求に焦点を当てています。キャッシュマネジメントの面では、中国事業はキャッシュ創出とEPS成長に大きく貢献しています。また彼らは中国での事業拡大のための資金を自身で賄ってきており、これは当社の中国事業が堅調であることを示しています。私たちは、このようなEPS増大に寄与する優良なアセットを継続的に求めていきます。

    当社は事業の地理的な拡大や、特定の地域でNo.1になることではなく、EPSの成長に主眼を置いています。この取り組みが、最終的には現在の当社の株価に対する中国ディスカウントを緩和し、市場でのより肯定的な見方につながることを期待しています。

    目先の課題はあるものの、中国市場の回復とともに当社の事業全体が改善すると考えています。現在の状況下でも、当社の中国事業は好調に推移しており、中期的にはさらに業績が向上する見込みです。

    若月 雄一郎
    MSVはEPSとPERの掛け合わせであり、それぞれの最大化を目指すものである点を皆様にご理解いただきたく思います。冒頭で述べたように、私たちは資本市場の当社に対する認識と、日本ペイントグループ全体の事業の実態にはギャップがあると考えています。

    当社はAOCという優良なアセットを加えることとしましたが、その目的は中国事業への依存を減らすことではなく、全体的な収益性を向上させることです。当社のM&A戦略は、中国以外のアセットにより焦点を当てる可能性もあり、結果として中国事業への依存度を希薄化できるかも知れません。しかし、当社の最も重要な目標は収益性の向上、すなわちMSVの実現であることに変わりはありません。

    ここで明確にしておきたいのは、中国は当社にとって重要な市場であるものの、私たちが全体的な事業の成長に焦点を当てているということです。アナリストや投資家の皆様には、私たちの戦略を評価する際に、より広い視野をお持ちいただきたいと思います。中国に関する質問にお答えすることも重要ですが、究極的に株主の皆様の利益を追求する「EPS積み上げマシーン」になるという私たちの使命を認識いただくことも、同様に重要だと思っています。

質問者B

  • A1中村 昌義
    AOCの買収に関して、取締役会でどのように議論し、AOCの経営リスクや可能性をどう評価したかという質問と理解しました。AOC買収のアイデアは、2024年7月中旬から下旬にかけて全取締役に提案されました。

    取締役会がこの買収案件をどのように検討したかを、時系列でご説明します。

    7月中旬に、執行側がAOCの買収を、可能性としてではなく、本格的に検討していることを認識しました。AOCは正確には塗料やコーティングの分野ではありませんが、コーティング周辺分野を扱う企業です。当時、執行側はDuluxGroupや他のグループでの買収案件も検討していました。

    私たちは同時並行で進行していた案件のうち、どれを最優先にすべきか決める必要がありました。検討の際には、各買収案件が短期的、中期的、長期的に、いかにEPSを積み上げることができるかを比較するとともに、そしてそれらを率いる経営陣の能力に主な焦点を当てました。

    その時点で買収可能なさまざまな案件を検討し、2~3件に絞り込んだ後、最終決定を下すまで並行して評価・検討を続けました。このプロセスでは、コンサルタントによる市場の楽観的な見通しを鵜吞みにせず、各事業の潜在的なリスクを当社既存ビジネスと比較・類推するとともに、私たちの知識と経験を用いて精査しました。また、当社の経営陣は、対象企業の経営陣と意見交換し、多くの質問を投げ掛け、徹底的なデューデリジェンスを実施しました。

    そして最終的には、AOCが当社にとって最良の買収案件であると判断しました。想定されるリスクを認識するとともに、執行側が取り得るべきと判断しました。また、さらに重要なのは、交渉を通じて、買収対象企業の経営陣が私たちとともに、MSVに向けた将来のリスクテイクを共有する用意があることが確かめられたことです。

    私たちはこのように買収案件を検討しています。本件発表後の11月の取締役会でも、既に別の案件の検討を開始しています。以上から、私たちがM&A案件を継続的に模索しており、十分な情報に基づいて判断を下していることがお分かりいただけると思います。

    若月 雄一郎
    確認したところ、執行側がAOC買収の可能性を最初に示したのは、7月ではなく5月の取締役会でした。私たちは3月のブレインストーミングセッションや2023年にも広範な議論を行っています。具体的には、検討した多くの買収案件のうち、当社または相手側が検討を継続しないこととした複数のプロジェクトについて、取締役会でも報告し、議論しました。取締役会のメンバーは、執行側が提示した多くの案件を評価する必要があり、多忙なスケジュールをこなしてきたと言えます。

質問者C

  • A1中村 昌義
    おっしゃる通りです。私たちはAOCのような取引や、より大規模な案件、異分野の案件を含め、継続的に検討し、取引の成立を目指していきます。

    取締役9名のスキルセットについては、現在のところ足りないものはないと考えています。ただし、市場に対する洞察力や技術的な専門知識など、特定の知識が必要な場合には、必ず外部のアドバイザーを起用し、可能な限り十分な情報を得た上で意思決定するようにしています。

    私が見てきた限り、そして私たちが継続的に実行している評価においても、現時点で重要なスキルが欠けているということはないと考えています。

  • A2中村 昌義
    まず、1つ目のご質問に戻って付け加えます。この点について私なりに考えていましたが、当社の取締役は事業経営に関する優れたスキルを有しているものの、過去の経験に過度に依存することには慎重にならなければなりません。各取締役は自身の事業経営について多くの経験を積んでいますが、現在のビジネス環境は異なっています。また、私たちの自律・分散型モデルは、信頼とアカウンタビリティに基づいて権限を委譲するものであり、各取締役が過去に行ってきた経営手法とは異なる点がありましょう。

    適切なスキルセットを持つことだけでなく、今日の状況やビジネス環境の違いを考慮し、過去の経験をどのように生かすかということを考えねばなりません。取締役会議長としての私の課題は、各メンバーの貴重な事業経営の経験を生かし、今日のビジネス環境に適応する戦略的な議論に焦点を当て続けることです。

    次に、「Audit on Audit」に関する質問、および効率的な経営のために欠けているものはないかという質問に関してですが、このコンセプトは、グループ各社が独自の監査運営組織を持っていることを意味します。グループ各社はさまざまなレベル(第一線、第二線、第三線)で監査を実施しています。持株会社レベルでは、これらの第三線の監査から受けた報告を、内部通報窓口、Control Self-Assessment、グローバル行動規範などの構成要素を含むリスクマネジメント体制を通じて整理します。私たちは情報を収集し、合理的な形でリスクを管理できるように、グループ各社をサポートしています。

    監査体制の枠組みの強化・高度化には、過去の手法を振り返ることも必要です。当社にもかつては本社に内部監査担当がおり、グループ内の事業部門を訪問することもありました。現在の「Audit on Audit」モデルは、本社の監査部門と監査委員会の役割を再定義し、信頼とアカウンタビリティに基づき各事業部門が実施する監査に依存する枠組みを構築することを目的としています。

    当社グループには、NIPSEAグループ、DuluxGroup、Dunn-Edwards、日本グループに加えて、AOCのような重要なアセットが加わっています。私たちの自律・分散型アプローチは、当社グループ内で発生し得るいかなる問題にも、本社は耳を傾け、対処する準備が求められます。本社は、現場の問題を探し出すことに注力するのではなく、現場が解決するサポートに努めることを私たちは目指しています。現場自身が問題を特定し、本社とともに解決することこそ、さらなる事業の拡大につながると考えているからです。

    持株会社の監査委員会、監査部門は、共同社長とともに協力してこれらの問題解決に取り組みます。このアプローチは、将来の事業拡大と持続可能性の確保に向け有益な成果をもたらすと考えます。

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