1. Introduction

皆様、こんにちは。パトリック・フーリハン(DuluxGroup CEO)とグラディス・ゴー(日本ペイントマリン社長)によるDuluxGroupとNIPSEAグループのブランド戦略のプログラムに続き、20分強の予定でNIPSEAグループの事業戦略についてご説明します。
NIPSEAグループは、日本ペイントグループのパートナー会社グループ(PCG)を構成する4社の一角を占めています。
2. NIPSEA Group – One of 4 key Partner Company Groups

NIPSEAグループの各企業は、28ヵ国・地域で事業を展開し、29,000人の従業員を擁しており、国・地域ごとで事業グループを形成しています。2023年の売上収益は7,710億円でした。最大の事業グループは中国、次いでマレーシアグループ(マレーシア、パキスタン、バングラデシュ、タイ、フィリピン、インドネシア、トルコ、エジプト、カザフスタンの9ヵ国)となっており、NIPSEAグループ全体の売上収益に占める比率は2023年にそれぞれ63%、26%となり、両事業グループで全体の89%を占めています。
製品別では、建築用製品が売上収益の78%(59%が塗料、19%が塗料以外)を占めています。より確実に顧客のニーズに応えるためにも、塗料以外の製品のラインアップを拡充することが重要です。
営業利益では、中国が55%、マレーシアグループが35%の割合となっており、両事業グループでNIPSEAグループ全体の90%を占めています。
地域別では中国とマレーシアグループが売上収益と営業利益の90%を占め、製品別では建築用製品が売上収益の78%を占めていることから、本日は中国とマレーシアグループ、建築用事業に焦点を絞りながらご説明いたします。
3. 2021 to 2023 –Resilience amid uncertain times

過去3年間を振り返ると、コロナ影響や中国のゼロコロナ政策、サプライチェーンの混乱、インフレ、ハイパーインフレ、各地での紛争など、さまざまな問題が発生しました。
このような課題や不透明な情勢の中で、中国とマレーシアグループはリジリエンスを十分に維持したことから、売上収益、営業利益、営業利益率は全て順調に推移しました。
4. NIPSEA China / China macroeconomy – Sluggish economy driven by deflation, cautious consumer sentiment and low spending


中国経済はディスインフレーションや消費者心理の低迷、消費の伸び悩み、貿易・技術の国際的なデカップリング(分断)によって低迷しました。
説明資料に記載した5つの指標は、依然として経済の混乱が継続しており、低迷した活力がいまだ回復できていない状況を示唆しています。
5. Residential market & building materials segment is soft

消費者心理に加え、住宅や新築物件の販売も市場成長をけん引する要因です。
2024年には、中古・新築の両分野で「Commodity housing(商品住宅)」(住宅の同義語として使用される用語)の販売が引き続き減少しています。
政府が2020年第3四半期に「3つのレッドライン(三条紅線)政策」を打ち出して以来、中国の不動産市場の状況は急速に悪化しています。大手ディベロッパーが破綻したのは、この1年後になります。
さらに不十分な景気刺激策や不動産ディベロッパーの資金繰り悪化、不動産購入者の信頼感低下は建築資材の販売減少をもたらしました。
6. Paint market facing challenges. Where are the opportunities?

中国塗料業界の売上収益と利益は不安定で、2019年の水準からほとんど変化していません。
中国の状況はさまざまなデータで確認することができますが、中国経済と塗料市場の状況は極めて悪化しているという一般的な認識は共通しています。当社の現地従業員は、こうした厳しい状況に冷静に対処していますが、好機も見出しています。
当社の姿勢に対して疑問を投げ掛ける見方もあるかと思いますが、コップに入った半分の水に例えてご説明いたします。コップには半分の水しか入っていませんが、当社はなぜ「半分しか入っていない」と考えず、「半分も入っている」と考えているのか?それは半分の水に好機を見出しているからです。その半分の水とどう対処していくのか?そうした課題こそ、当社が今こそ成功に向けて忍耐強く取り組んでいかなければならないことであると考えています。
競争力を持つ大手企業にとって有利な市場統合が進んでいます。小規模な塗料会社の多くは、厳しい事業環境に直面しており、通常の営業継続が難しい状態に陥っています。中国塗料協会に登録されている塗料関連企業は現時点で約4万2,700社を数えますが、うち半数近くが営業休止に近い状況に追い込まれています。
こうした状況下、当社は次の対策を通じて収益拡大を目指しています。
- (1)プレミアム市場でのブランド力強化、(2)Top of Mind(第一想起ブランド)による認知度向上、(3)巨大都市や大都市(1~2級都市)での存在感強化、(4)中規模以下の都市(3級都市以下=以前の地方都市)への進出準備――を通じてNIPSEA中国の強みを生かす。
一方で、
- 中国のTUB事業は、2019年までは住宅ディベロッパーが唯一の顧客でしたが、現座は工場や学校、病院、公共施設などの分野で顧客基盤を拡大。
これ以降は、財務的な内容よりも、主に当社の見解や方針、アプローチ、実際の行動に重点を置いてご説明いたします。
7. NP China Target Markets – Sharpening our focus

9点の図表と2本の短編動画を通じて、NIPSEA中国の従業員が活発に働き、前向きで意欲的な姿勢を維持している理由をご説明いたします。
まず、変化する業界の展望と新たに生まれつつある機会が、当社が目指すべき分野を浮き彫りにしました。
公共部門、事業部門、消費者部門の各分野について、詳しく述べていきます。
8. Public Sector - Public infrastructure opportunities for future growth, supplemented by strong commitment to ESG

公共部門では、今後の成長を視野に入れた公共インフラの事業機会がESGに対する強いコミットメントによって下支えされています。
当社は公共部門に対して、長年のESG関連の取り組みに裏打ちされた幅広いポートフォリオと中国政府が掲げる持続可能性の課題を融合したシナリオに基づいたアプローチを進めています。
こうした取り組みの成果として、当社は2024年11月に上海で開催された中国国際輸入博覧会(CIIE)に参加しました。各省・都市政府の幹部が率いる使節団が「Nippon Paint Chinaは単なる内外装塗料の会社を越えた存在である」という事実を知って、驚きの声を上げた光景を私は実際に目の当たりにしました。当社はこうした機会を捉えて、幅広いポートフォリオで構成する当社の製品を世界展開しました。これらの製品は中国のニーズに対応するべく、世界水準の技術力で作り上げたものです。具体的には、
- 光触媒塗料:上海にある6階建て集合住宅の外壁に塗装した場合、自動車10台分の年間排出ガス量に相当する汚染物質を除去することができます。中国の各都市が都市の再生と大気の浄化を進める上で、当製品は魅力的な選択肢になり得ます。当社と中国の華東理工大学、華東師範大学が共同で出資したイノベーション・プラットフォームで当製品を開発したことも、中国では大きなアピールポイントになります。
- エネルギー消費量を抑え、CO2排出量を削減する環境に配慮した自動車用塗料:塗装作業は自動車の製造過程において最大のエネルギーを消費しており、全工程の総消費量の約70%を占めます。2023年の中国自動車生産台数に基づいて算定すると、環境に配慮した塗料を使用することで、150万トン相当のCO2排出量を削減できます。
- 見通しの悪い状況下で、既存の標識よりも目視やライダーセンサーで100メートル以上早く認識できる道路標識用塗料:環境への配慮に加えて耐摩耗性にも優れており、従来の水性道路標識用塗料と同じ使用量で比べた場合、耐用年数が3~4倍長くなります。さらには、わずか15分で乾燥させる速乾性機能も備えているため、工事中の道路占有時間を短縮することも可能です。
当社は2024年、既に100件を超えるプロジェクトに取り組んでいます。各省・都市の指導者や行政担当者から注目を浴びたことを機に、当社は理論上のメリットを実際の収益につなげていく努力を続けていきます。
9. To Business – Pivoting, driving strategy shift, positioning for sustainable growth

事業部門では、戦略の転換を加速・推進し、持続的な成長に向けた位置付けを見直します。
当社は特定の産業に焦点を絞った展示会やフォーラムへの参加を通じ、住宅以外の分野に事業の軸足をシフトする戦略変更について対象顧客に広くアピールしてきました。従来の大手不動産ディベロッパーに加え、現在は各地域のディベロッパーや各地の請負業者などの幅広い顧客と取引を展開しています。具体的には、老朽化した住宅の改修や住宅街の改修、病院や学校の改築など、対象を絞ったソリューションを提供しています。専門チームが工業団地や工場、精密機器製造・食品加工分野の関係各社に働き掛け、特定のニーズに合わせたソリューションを提供することで、新市場の開拓を大規模に進めています。
CIIEにおいては、過去2年間に市当局や不動産所有者に対して提案してきた小規模な4つの都市再開発計画を披露しました。それぞれの内容は、歴史的建造物の修復、公共施設の改修、工業用建築物の転用、老朽化した住宅街の改修となっています。老朽化した住宅街の改修計画には、「旧来そのままの再生」を目的とした塗装手法、タイルを剥がさない「ファサード(外観)の迅速な修復」など、都市再生の現場に相応しい伝統的な塗装ソリューションを含んでいます。
こうした取り組みにおいて、当社は単なる塗料の供給業者ではなく、顧客の課題を解決するソリューションの提供業者として認識されています。これらのソリューションは改修期間の短縮や資源の有効活用、環境に配慮した省エネ対策の強化、生活環境全体の改善を図る上で、優れた効果をもたらします。例えば、当社の通路改修ソリューションは、作業期間を従来の方法に比べて6日以上短縮し、わずか6時間で作業を完了することができます。
実際に施工するチームの存在も極めて重要で、当社のサービスを提供する上で不可欠です。当社の教育機関では、専門的な施工技術を持つ塗装職人を育成しています。当社は中国政府から塗装技術に関して公式の認定証を発行することが認められた初めての外国企業となっています。
10. To Consumer – Colour strategy & Textured products “Magic Paint” key, strengthening our position as market leader

私は2年前のIR説明会において、消費者市場でドミナンスを獲得するべく、「カラー&テクスチャー戦略」をご説明しました。マーケットリーダーとして、自動調色機(CCM)の設置箇所を増やし、消費者がより多くの色を利用できるように努めるとともに、多くの施工技術者を育成して顧客の満足度を高めることで消費者と密接に関わり、消費者の需要と購入意欲を高めることが狙いです。テクスチャー製品に関しては、ブラシやローラーを使った基本的な施工よりも高度な技術が必要となるため、施工技術者の育成が特に重要となります。
11. To Consumer – Colour strategy: Annual Colour Trend Launch Campaign - Retaining long term & attracting potential consumers

ここで、動画をご覧ください。
12. Textured “Magic Paint”, engaging the young and high-end consumers / Brand leadership – Clear Top of Mind leader


過去2年間のブランド認知度調査において、当社のTop of Mindスコアは世代や都市の規模、価格帯に関係なく51%に達しました。特にカラーとテクスチャーではそれぞれ68%、72%に上昇しています。消費者心理が回復に向かい、改修の需要が拡大するタイミングを見据え、高い認知度を誇るブランドリーダーとして万全の体制を整えています。
13. NIPSEA China Distribution

当社は強固な販売網を維持するべく、新たな取り組みを継続しています。1級都市の新たなPhoenixパートナー企業各社は中小規模の不動産プロジェクトへのアクセスを強化し、3~6級都市の新たなPhoenixパートナー企業各社は供給の効率性向上を図っています。市場の統合が以前は競合他社だった企業を新たなパートナーとして迎え入れる要因となっています。
さらには、タイル用接着剤や防水加工品などの周辺分野の製品開発も数年にわたって進めており、専門的な製品分野のディーラーとしても事業を展開しています。この結果、最終消費者向けの活動がより積極的になり、さらに顧客基盤が拡大する見込みです。
14. Boosting product appeal across Tier 3 to Tier 6 cities with targeted product offerings and exterior textured paint

3~6級都市における新たなPhoenixパートナー企業各社は供給の効率性向上だけでなく、各都市の市場ニーズに見合った機能や価格を持つ製品を提供しています。
15. NIPSEA Malaysia Group+ / Nippon Paint Malaysia Group+


NIPSEAグループの一員であるマレーシアグループは9ヵ国で事業を展開しており、売上収益は2,000億円規模に達し、順調に成長を続けています。1967年に進出したマレーシアを皮切りとして、現在ではパキスタン、バングラデシュ、タイ、フィリピン、インドネシア、トルコ、エジプト、カザフスタンで事業展開しています。中国とは異なり、マレーシアグループは国籍、文化、ビジネス慣習などの面で極めて多様性に富んでいます。各社が自律経営を行っていますが、「株主価値最大化(MSV)」という共通の目標のもとで一体化していることは、NIPSEAグループの本質を体現しています。
16. Malaysia Group+ Growth Thrusts

説明資料の棒グラフの推移を見れば、マレーシアグループが地理的な拡大と各事業の発展を通じて成長してきたことが分かります。
NIPSEAグループの他の事業体の多くと同様に、マレーシアグループは多様な塗料事業を展開しており、建築用や自動車・二輪車などの工業用、自動車補修用(AR)、保護用(PC)、防水用、床材用、SAF(密封剤・接着剤・充填剤)、ドライミックス製品、ツール・アクセサリー、船舶用などを取り扱っています。新たな市場に進出する場合は、まず主要なセグメントで製品の浸透を図り、時間をかけながら提供する製品を拡充していきます。
マレーシアグループは塗料製品以外にも、DuluxGroupのSelleys事業部(Selleysブランド)と中国の主導のもと、SAFやパテ・ドライミックス関連事業を構築し、Vital社やCMI社、その他の小規模な事業をベースにした「トータル・コーティング&コンストラクション・ソリューション(TCCS)」を2024年内に完成させる計画です。塗料関連事業を周辺分野で補強することにより、成長はさらに加速する見込みです。マレーシアでこうした方向性が明確になれば、グループ内の他の地域でも同様に適応し、展開を進めていく方針です。
他の地域の事業体は、各国固有の市場の状況を考慮した上で、新たな方向性を取り入れていく予定です。各国の事業体はそれぞれ単独で新たな分野に参入できるほどの規模ではありませんが、共同でコアとなる部分を取り入れ、新たな方向性に適応していくことで成長が可能になると考えています。現地経営陣の力と手頃な価格によるグループとしての投資、市場への迅速な参入、そして十分な柔軟性の組み合わせによるものです。
成長と収益性に対する実績は、こうしたプレイブックを再現できるという自信の根拠になっています。成長に対する規律あるアプローチは、長年にわたって構築・強化されてきた複数のプラットフォームによって支えられています。
マレーシアグループの各事業部門はこうしたプラットフォームによって結び付けられており、これらが全体として、当社の競争力のあるポジションを守る障壁となっています。
マレーシアグループのプラットフォームが持つ障壁について簡単にご説明すると、具体的には、(1)顧客中心主義:「トータル・コーティング&コンストラクション・ソリューション(TCCS)」、(2)技術と製品、(3)デジタル技術、(4)事業のアプローチ、の4項目で構成されています。
17. Moat: Customer Centricity Total Coating & Construction Solutions

「トータル・コーティング&コンストラクション・ソリューション(TCCS)」は、プラットフォームにおける障壁の1つとなります。マレーシアで長年にわたり試験的に運営され、綿密に開発されてきたTCCSは、建築用と表面保護の分野で消費者と企業の手間を取り除くことを目標にしています。こうした結果、Nippon Paint Malaysiaは多くの市場で「塗料のエキスパート」と認識されています。
18. Total Compatible System from Bare to Finish

当社は顧客に対し、素地から全ての表面の仕上げに至るまで、ワンストップ・サービスとして互換性のあるソリューションを提供しています。構造物や保護材、床材、木材、SAF、ドライミックスなどに関して、素地から表面仕上げに至るまで互換性のあるソリューションを提供できるのは、当社が市場洞察力と技術的な能力を保有しているからです。
既存住宅の改修や新築住宅のいずれにせよ、当社は職人や関連団体、デザイナーと密接な関係性を維持しながら、市場の動向を把握するとともに、技術革新を推進して、常に市場への早期導入の促進に努めています。
マレーシアグループの従業員は、こうした分野で積極的な技術革新を進めているNIPSEA中国の動向を常に把握しています。
19. Best in Class Product, Technology & Quality

当社は体系的なアプローチにより、市場ニーズに対応できる最高クラスの製品を提供します。市場ニーズへの対応に関しては、競争力を維持するため、試験的な販売などを継続的に行っています。
20. Moat: Integrated Digital Platform

もう1つのプラットフォームの障壁は、「統合デジタル・プラットフォーム(Integrated Digital Platform)」です。このプラットフォームは開発当初から、追加で開発された機能を統合していく想定で設計されました。既に消費者や販売、業界のデータに関する多くの市場関連のモジュールが組み込まれています。調達や生産に関するデータであれ、物流に関するデータであれ、リアルタイムのデータは、当社のオペレーティング・システムに統合されています。統合デジタル・プラットフォームの「Connect(コネクト)」は現在も開発中のモジュールがあり、開発が完了次第、順次グループ全体に展開しています。「Connect(コネクト)」は顧客も利用が可能で、当社のエコシステムに含まれる関係者や当社製品に満足した顧客が作成したTikTokやYouTube動画の恩恵を受ける顧客も利用可能です。
完全なモバイル対応に加え、進化しつつある人工知能(AI)の活用にも取り組んでいます。2025年初めには高い生産性を誇る調色AIツールを公開する予定です。
21. Moat: Processes & Systems

マレーシアグループは、完璧な戦略を構築しました。
- 将来的に追加が容易なモジュールを活用して成長を実現
- 製品や技術、コーティング・ソリューション、デジタル接続を統合したプラットフォームへのアプローチを通じ、中小事業部門が独自の自主性とグループ全体のスケールメリットを活用することで地域の競合他社を凌駕
当社は事業の進め方に関して共通の言語を持つ幹部人材のプールを各国で作り上げるなど、人材開発を重視することで、事業の拡大と継続的な強化を進めていきます。
22. Summary

当社の成長に向けた道筋はエキサイティングで、新たな機会にあふれており、大きな利益を生み出しています。マレーシアグループのプラットフォーム戦略は順調な滑り出しを見せています。最近ではAlina社が加わり、2024年内にはドライミックス・パテのポートフォリオに新たな事業が加わる予定です。
中国とマレーシアグループの説明を通じて、NIPSEAグループ各社が各地の自主性を維持しつつ、グループ全体のスケールメリットからどう利益を得ているかをご紹介しました。以上の説明により、当社が世界の現状を把握した上でどのように適応し、成長してきたのかを理解できたのではないでしょうか。
2024年は厳しい経営状況となりましたが、2025年以降の成長を見据えて引き続き地歩を固めていきます。
ご静聴をありがとうございました。